これは矛盾です。は矛盾ではありません。(意味なし)

前回

たとえば「生きている死者」とか「足が10本ある昆虫」みたいな定義上ありえないケースなんかは「論理的にありえない」といえるので

と申しました。今ダラダラと「論理的ってなんだろう」と考えている過程なのでここでもちょっと道草しましょう。

生きている死者があり得ないのは丸い三角がありえない(サクマのいちごみるくはどうなのさという疑問はこの際無視して)のと同じぐらい論理的にあり得ないわけですが、「論理的にあり得ない」とここでもまた「論理的に」をつけられるのはなぜなのか。

論理の大事な約束というか定理の一つにこんなのがあります。
『PかつPでないということはない』

たとえば鯨は魚であるかもしれないし魚でないかもしれませんが「鯨は魚であり、かつ鯨は魚でない、ということはない」のは間違いありません。

鯨は魚じゃねーよ!というのは、論理の外側にある生物の知識がある人だけが言えることです。今は仮に生物の知識があんまりなくて鯨を初めて見たと考えてください。鯨は哺乳類だよ!から抜けきれない人は、仮にこんなのがいたと考えてください。

こういうのが太平洋を泳いでいた。これは魚だろうか?魚でないだろうか?論理はそれについて何も情報を与えることはできません。何も情報を与えることはできませんが、「魚でありかつ魚でないということはない」ということは断言できます。正体不明の生き物だけではなく、何事につけてもPでありかつPでないという状態、これを矛盾と呼びますが、矛盾を論理は拒否します。

死者というのは、その言葉の定義上「死んでいる」という情報を含んでいます。死んでいる者を死者という。死者Aは死んでいた、死者Bも死んでいた、ところが死者Cは生きていた!となると、「生きている」ということはとりもなおさず「死んでいない」ということですから、「死者Cは死んでいるかつ死者Cは死んでいない」という矛盾が生じます。これは「PでありかつPでないということはない」という論理の約束に反するので、だから、「生きている死者」は「論理的に」ありえないと言えるのです。

これに比べてたとえば「水は言葉を理解する」はその命題だけを見ても別に矛盾ではありません。「やせたいといいながらすごい量のおやつを食い続けるKさん」とか「愛国者を自称しながら自国を貶める行為をし続ける人」とかが仮にいたとしてもそれも別に矛盾ではありません。

論理でいう矛盾は、先に書いたとおり「PかつPでない」という状態のことです。これは常識的に考えて辻褄があってないじゃんとか、普通はこうだよねとか、日常語で「矛盾」と呼びたい、呼んでいる状況よりももっとはっきりくっきり限定されています。そして、極めて限定された「矛盾律」などの論理の約束に反しない限り、常識的に考えたらどんなに荒唐無稽なことでもアホなことでもとんちんかんなことでも論理は全て太っ腹に許容します。「論理的にあり得る」というのはそういうことです。

たとえば、今私が飲んでいるビールの缶をひっくり返してもビールがこぼれないどころか飲んでも飲んでもビールが減らず缶から噴出してくることは論理的にはあり得ます。あいつの方が俺より仕事ができないし金もないし外見もムサいし性格も悪いのに俺よりモテるということは矛盾ではありません。論理は100%言えることしか言わず、情報量を増やしません。常識的に妥当か、科学的に正しいかどうかも論理の守備範囲外です。

ここで前回予告したこれを見てみましょう。
i. Kさんは甘いもんが大好きである。よってKさんは太っている。

この文の内容は「論理的にはあり得る」ことですが、この文は論理的(に正しい)かといわれれば論理的(に正しいの)ではないと言わなくてはなりません。甘いもんが大好きだからといって100%太っているとは言い切れないとき、論理では「よって」とか「従って」とか「すなわち」と言ってはいけないのです。大体合ってるのは論理的とはいいません。ちょっとでも他の可能性があるとき、論理にできることは言及しないことぐらいです。

確認しておきますが、論理が常識や科学や経験の蓄積を否定するのではありません。Kさんが甘いもんが大好きでそれが原因で結果として太っているということはおおいにあり得ることで事実として正しかった、上の文は単に事実を述べたものに過ぎないということは勿論あり得ます。しかし、事実として正しいからといって論理的に正しいことにはなりません。事実はたまたま事実だっただけのことで論理的かどうかとは別問題なのです。「論理的にあり得る」ことと「論理的に正しい」ことも別問題です。論理的にあり得るというのは、命題の中身について論理の観点から言及しています。論理的に正しいことは、これまで見てきたように、個々の命題の中身が論理に関するものである場合を除いては、命題の中身に関与しません。

長くなりました。また道草したので前回の予告は次回に持ち越すことにしましょう。