好きなことばでしゃべっていきたい-ことばカフェ参戦記

ことばカフェに行って来ました。一歩会場に入って思ったこと:濃い。なんなんだこのとんこつスープのように濃厚な雰囲気は。客席の年齢層高め。

客席の年齢層が高い謎はすぐに解けた。著名な言語学者とかその筋の専門家達が主催者サイドとは別にシレっと参加しているの加えて市井の研究者、院生など名簿に職業は書いてないけど君らどう見てもプロもしくはセミプロといった人がほとんどの印象。これは事前登録制にして人数切ったのとも関係あるでしょうね。ネットとかでこのイベントを知ってメールで事前登録するのにも抵抗ない、というと限られてくる。広く一般に関心をもってもらうことは次の段階として、今回はセミプロぐらいで濃い討論をやって、徐々にそこから間口を広げていく作戦か。私は自分がまた半可通で調子に乗ってしゃべりすぎることを警戒していたのだが、杞憂だった。しゃべりたい人ばっかりだったから、むしろ口を挟むのが大変だった。

カフェはテーブルごとの自己紹介から始まったのだが、自分の方言で、タメ口で、という縛りをつけられた。始めにプロの司会者と講演者の京大の田窪先生と阪大の高木先生が見本の形で自己紹介。司会者はアナウンサーということで、さっきまで共通語でしゃべっていたのを鮮やかに大阪弁に切り替え、高木先生も大阪、そして田窪先生はご出身地の言葉ではなく沖縄の宮古方言で話されたため、一言もわからなかった。「通訳」は後で、講演の時に解説された。

テーブルごとに「タメ口」で「方言で」の自己紹介は、無理があった。方言にしろなんにしろ、50年配、60年配のおっちゃんを前に学生とかわたしらみたいな若輩者(そのおっちゃんらに比べたら)がタメ口きけるような社会ちゃうやろ。誰に向かって話すかも我々の言語体系に組み込まれてしまっている。偉い先生にタメ口聞くなんてその時点でふだん自分が使っている方言でもありえない訳で、そういうありえない設定ではかえって言葉が出ない。これは仕掛けとしては外しているとしかいえないと思う。その後、自己紹介を兼ねた方言トークで、前述の通りどう見てもしゃべりたくて仕方ない人ばかりだったので熱く濃く面白かった。

次に高木先生が方言の現状みたいのを概説。京都弁の「桃太郎」は、おじいさんが語るのと今の若い子が語るのと2種の録音が流され、語彙などが東京方言化してたりするのだが、話者自身にはその自覚がなく、それを指摘されると心外そうな反応になるとのこと。また関西弁の話者は他方言の話者が「間違った」関西弁をしゃべるのに対して多くは寛容ではなく、それをいちいち指摘して「直してあげたらできるようになる」と思っているのが間違いだ、という話もあった。しかし一般にいちいちあんたは間違っていると直されるのは傷つくという話だったけど、私は直してほしいなあ。(追記:私が直される立場なら直して欲しいの意です。)

その後またグループで方言についての体験談などグループトーク。これも参加者の「わしにも言わせろ」感炸裂でおとなしい人は口が挟めない。濃い。実に濃い。面白い。休憩を挟んで次に田窪先生の講演になるのだが、ここでテーブルをシャッフルしてもよかったのではないだろうか。

田窪先生の講演は方言はなぜ消滅したり変容するのかなどのやはり概説的なことに加えてご自身が作られている宮古方言の電子博物館のデモがありこれは感動もの。しかし先生は、後で司会者がなんとか多様な方言を残そうとする熱い思いを語ってほしそうなのに、「非常に大変で使命感みたいなものでは続かない」などと身も蓋もないのだった。

方言をどうしたいか、残したいか残すべきなのか、残すとしたらその方法と課題は。これもテーブルごとに議論沸騰で、地域ごとに国語の副読本を作るべき、方言を残すことが楽しいと思われるような仕掛け作り、テレビやラジオのローカル番組での採用、行政の方言講座などの提言が出た。一方である話者の方言を「正しい」方言として記述してしまうとそれが実体とは離れた規範になってしまうとか、行政に頼るのは危険なこともあるとか実際に方言を記述研究されている体験などに照らした話もあった。

最後の高木先生のコメントでは日本語が外来語を自分のものとして取り込んできたように、関西の若い子がたとえば東京方言を自分のものとして取り込んでいる、それもれっきとした方言だということ、田窪先生のコメントでは方言が消滅する理由として、経済的なものと現代の生活に合っていないというものがあり、合わないものは合う形に変わらないと消滅する、消滅しないためには「方言創造」が必要だという話が印象に残った。私はどこかのテーブルから出た「好きなことばでしゃべっていきたい」これに尽きる。正しいでもなく美しいでもなく、好きなことばでしゃべっていきたい。

書くべきことはまだまだあるのだが、書ききれないのでこのぐらいにする。結論として濃かった。期待したよりもはるかに濃く楽しく充実したカフェでした。金水先生始め、企画運営していただいた先生方、学生さん関係各位に深謝いたします。おおきにありがとうございました。