それはデマではない。朝日と橋下氏の問題についての覚書

遅ればせながら週刊朝日の記事に橋下氏が抗議した問題について。この件に関しいくつかの記事にブックマークでコメントをつけたとおり私は『問題の週刊朝日の記事は明らかに差別的なものである。橋下氏の抗議は当然で(取材拒否という手法については別問題)また朝日新聞出版と朝日新聞が謝罪したのも当然である。』と考えている。

しかしたとえば宮武嶺氏の記事には

今回の記事に、彼の親や祖父が部落出身だから、橋下氏の人格が悪いとか、能力がないとか、「悪い血脈」風なことを書いている部分は全くありません。橋下氏一流の誇張と言うか、はっきり言ってデマです。橋下氏を含めて、週刊朝日を批判している人も、記事の文章のどの部分が具体的に差別だ、人権侵害だなどと指摘することはできないでいます。

と書かれてあり、これに賛同する人も多いらしい。いやいやこれは「はっきり言ってデマ」などではない。以下に主な問題点を列挙する。これらの問題点については、他のところでも指摘済みの点が多いと思うがご容赦を乞う。以下、鍵かっこ内は週刊朝日からの引用で一部伏字にしている。中略があるところは引用者による。

表紙
1)「ハシシタ」という見出し
・愛称や親しみをこめた呼び名でもなく本人が違うと言っている呼び方をわざとするのは嫌がらせ。部落差別を想起させることを筆者や編集部が知らない筈がない。

2)「橋下徹のDNAをさかのぼり本性をあぶり出す」
・DNAをさかのぼるということは出自をたどるの意と読み取れる。出自という本人の全くあずかり知らないことを根拠に人格を決め付けるという宣言。

2ページ目 
3)テレビカメラが回っていないと暗い顔になるというところから「この男は裏に回るとどんな陰惨なことでもやるに違いない。」単なる憶測と誹謗。その後に光市事件の煽りやら刺青調査が例示される。これらの件は批判されるべきことに異論はないが、少なくとも橋下氏が裏に回って陰惨なことをしているという事例ではない。
4)「橋下の言動を突き動かしているのは、その場の人気取りだけが目的の動物的衝動である。」根拠も何も無い誹謗。

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5)関西弁丸出しのおっさんの話として(大阪でのパーティーに来ているおっさんが関西弁丸出しなのは当然だと思うが)「橋下さんの父親は水平社あがり(被差別部落出身)でそれに比べて母親の方は純粋な人やと思う。」
母親が「それに比べて純粋」というのはどれに比べてか。わざわざ被差別部落出身と注釈までつけて、「水平社あがり」が「純粋な人」でないと言っているに等しいではないか。これが差別でなくてなんなのか。さらに橋下氏は母親に似たから立派な人というような(そのおっさんの)説を続けている。父親の出自と「純粋な」母親を対比させ、母の方を持ち上げれば父は貶められる。パーティーにいた変なおっさんの話であって著者や編集部の意見ではないという言い逃れは通用しない。登場人物の口を借りればなんでも言えるし、この発言に対してなんの注釈も施されていない。第一義的に著者に、次に通した編集部にも責任がある。さらには十分に親会社が見識を問われる事態だろう。

4ページ目
6)曽祖父の代まで父方の家系図を晒す。親も祖父も公人だった元首相のケースとでもいうならまだしも、市井の人だった曽祖父、曾祖母まで実名を挙げるのはプライバシーを暴く以外になんの意味があるのか。また、晒すこと自体が問題ではあるが、他の元首相など晒されても貶められる側として差別を受ける心配がない人と同列には扱えない。

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7)「一番問題にしなければならないのは、(中略)その厄介な性格の根にある橋下の本性である。
 そのためには、橋下徹の両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べあげなければならない。」
「厄介な性格の根にある本性」を知るために「ルーツを詳しく調べ」あげるなどというのは明らかに『「悪い血脈」風なことを書いている』としかいえない。橋下氏の父が被差別部落出身だったとして、それは父自身の責任ですらない。公人としてプライバシーが制限される場合があるとしても、公人だから差別してもよいわけではない

8)「この国の将来の舵取りをしようとする男に、それくらい調べられる覚悟がなければ」
勝手に決めるな。「ルーツ」を晒すのは本人の覚悟だけの問題ではない。両親はもとより家族親戚にもプライバシーがある。全く無関係の人々にも迷惑が及ぶ。

9)「(父親が)『奈良の少年刑務所で相撲しとった』」父親のプライバシーの侵害。

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10)「(父親の出身地の)××には被差別部落がある」
そのことが今暴露されたと言っているのではない。たとえ本人が既に認めていても、以前に他誌に載っていても、周辺の人にとっては周知のことであったとしても、全国規模の週刊誌が名指しで被差別部落のお墨付きを与えるということは、たとえばネット上でしつこく部落の実名をあげて嫌がらせをする人に加担することであり、今も厳然とある就職差別や結婚差別を助長することである。

11)「(父の弟)と愛人の間に生まれた子が××事件をやった。」
もう出所している人の犯罪歴を暴いていいのか?「愛人の間に生まれた子」という辺りも非嫡出子に対する差別を感じるし親戚の犯罪歴まで出して「橋下徹の周りには修羅が渦巻いている」とおどろおどろしく断定するのは中傷といわざるを得ない。

以上、目立つところを挙げた。以上のような問題点に加えて「人間のクズ」の類の罵倒表現がちりばめられている当該記事が、謝罪の対象になるのは当然としかいいようがない。従って以下のような反論も私は認めない

1)『「佐野氏の意図は違う。日頃の佐野氏の書くものから考えて佐野氏が差別を意図する筈がない。』
佐野氏の意図が違ったかどうかは誰にも知りようがなく詮索もできない。出てきたもので判断するしかない。仮に意図が違ったとして、意図が違えば差別表現は問題ないのか。ならば差別表現が問題視される石原慎太郎氏だって本人の意図としては「意図はない」かもしれない。石原氏が「差別の意図はない」と言って納得するのか。

2)『謝った朝日はヘタレ。著者を守るべき』
著者を守るというのは、著者と共に発信したものに対して責任を持つことであって、著者および自らに非があるのに突っぱねることではない。橋下氏や同和問題アンタッチャブルにしたという批判もあたらない。議論を通じて橋下氏を批判すること自体は封じられてもいないし、同和問題についても同様である。

以上、断片的なブクマコメントでは表明しきれないため、私見を覚書として記す。